『グラツー・インプレ』Vol.1ルノー・メガーヌ1.6(AT)

グラツー・インプレ、スタート!
いつもなんの脈略もなく始まるウェブ&モバ企画。唐突で申しわけない。と言いつつ今回もいきなり新企画のスタート。その名も『グラツー・インプレ』。解りづらいタイトルである。つまり、今ちまたで話題のクルマや編集部イチオシのクルマを、過酷な長距離テストに連れ出して徹底検証してしまおう、という内容。題して「グランドツーリング・インプレッション」である。
ちなみに第1回目に選んだのはルノー・メガーヌ。日本では超マイナーな存在であるルノーのCセグメントハッチバックである。普通の国産車メインの雑誌ではありえないチョイス。しかし編集部は本気である。世界中で売らなければならないCセグハッチなのに、誰にも真似できない斬新なエクステリアデザインを身にまとい、シャシー性能&セッティングは秀逸、さらに安全性への取り組みも文句なし。メガーヌはクルマ好きのアシとして、胸を張って薦められる存在なのだ。もちろん伝えたい相手がMag-x読者だから、というのもある。クルマだけに限らず物事の本質を理解している人たちだと思うから。
というわけで、メガーヌのベーシックグレードを過酷な長距離テストに連れ出し、その実力をジックリ検証してみたい。
1000km乗って初めて見えてくる物
「トビラのイメージ撮った、詳細写真撮った……。よし、そろそろ出かけようかな」ひと通りの撮影を終え、ワタシは西へ向けて旅支度。東京は深川を出発点に、今は最初の舞台である箱根越え。いつも「数10分乗っただけじゃ本当のことは解らないんじゃないかなぁ、せめて1000kmくらいは走ってみないと」と公言しているワタシ。クタクタになるまで走って、いい加減イヤになるまで乗って、そこまでいって初めて見えてくる物がある。というわけで、今回はマイチェンを受け後期型となったルノー・メガーヌ1.6(AT)を長距離テストに連れ出そうというのだ。東海道から伊勢をまわって奈良&京都、帰りは中山道をしずしずと。松尾芭蕉翁の『野ざらし紀行』よろしく、1700kmの旅に出かけたのだった。
ここでメガーヌ1.6の簡単なおさらい。クリフカットにも似たリアウインドウ処理が斬新な現行モデルがデビューしたのは2002年。そして日本導入は04年1月から。ユーロNCAP5つ星という衝突安全性や、秀逸なシャシーの基本性能+電子デバイスをもつ。また2006年末にはマイナーチェンジを受け後期モデルに。
ちなみに1.6は113psのパワーと15.5kgmのトルクを発生する直4エンジンを搭載し、全長×全幅×全高は4240×1775×1460mm、ATモデルの車両重量は1290kg、最小回転半径は5.2mといったデータ。価格は4ATが250万円、5MTが240万円(07年12月5日現在)。そう、皆さんもご存知の、世界中のCセグハッチのベンチマークとされるVWゴルフの最大のライバルなのである。
年々変更を受けるATプログラム
まずはすっかり日の暮れた国道1号線を西へ向けてひた走る。と同時に最初の給油。長時間の渋滞のあと撮影でガンガン走るという状況下での燃費は、9.2km/Lというもの。予想通りの結果。
ストップ&ゴーが延々とつづく。で、じっくり操作系をチェック。4ATは不評をかっていた例のAL4。比較的ポジションキープする味つけのトランスミッションだ。と言いつつ年々チューニングを変えているようで、出始めのころと較べるとずいぶん日本人にも馴染みやすい物になっていると感じる。そう、シフトショックがやわらげられ、早めにトップに入るようなプログラムなのだ。もちろんトルコンATにどっぷり浸かった日本人に多い、パタパタとスロットルのON/OFFを繰り返す運転にもなんとか合わせてくれる。
ちなみにどうしても自分のタイミングでシフトチェンジしたいというのなら、レバーを左側に倒してマニュアル操作すればいい。その方がいくぶん燃費も良くなるはず。それにステアリングでパドル操作できたらなお良かったのに、とも感じた。喜ぶのは日本人だけかもしれないけど、日産関連メーカーから安く買えばいいのだから。
1300kg近い車両重量のため、出足はお世辞にも活発とは言えない。しかしいったんスピードに乗ってしまえば、不自由を感じることはないだろう。前回、テストコースで180km/hオーバーの巡航が可能なことを確認済みである。
より扱いやすくなった操作系
ブレーキのフィーリングも変わった。全開走行時は多少甘くなるものの、普通に使う分にはノーマルパッドで十分だと感じた前回。しかしオーバーアシスト気味で、慣れるまでは微妙なコントロールに気を遣ったのだ。ところがマイチェンを受けた後期モデルは、利きはそのままながら違和感のない仕上がり。しかも止めるブレーキと曲げるブレーキの使い分けも上々。これなら初めて乗る人でも、意表をつくカックンブレーキにびっくりすることはないだろう。
それからフライバイワイヤのスロットルはスムーズで、ペダルの角度も悪くない。たとえば高速道路で長時間巡航するような、一定量で踏みつづける場合でも足首は痛くならない。もともとドラポジ自体が悪くないこともあって、右ハンドル仕様は若干中央にオフセットされているものの許容範囲だし、アップライトに座らせるのも想定内。個人的には一番下に座面をセットしてもまだ50mmは下げたいところながら、普通の人が普通の使い方をした場合は、このあたりがちょうどいいのではなかろうか。
及第点のシートと居住空間
シート自体は大き過ぎず小さ過ぎずほど良い大きさで、座面の傾斜角度もなかなか良好。お尻と背中でバランス良く体重を預けられる。それに窮屈感がないのに適度なホールド感をもつ形状もいいし、滑りにくい布製のシート生地もマル。ただ構造自体はシンプルな物だから、経年変化によるヤレはいくぶんあるかもしれない。
リアの居住空間も人が言うほど狭くない。横方向はともかく縦方向は必要十分。頭上や足下も合格で乗り降りも不満なし。それにガラス面積が適切で、閉塞感あるいは無防備感も少ない。アグレッシブなデザインのせいで空間が犠牲になっていると思われがちだが、実を言うとルーフはかなり後方まで伸びており、ミニバン的シルエットの持ち主なのである。
懸案のパワステと賛否あるインパネ
次に電気式パワステ。車両の個体差や車種による差別化、タイヤ&ホイールの違い、といったさまざまな要因があるから一概には言えないものの、この1.6はまずまずのフィーリング。アシストが利き出すまでの重さ、ON/OFFの境い目の違和感、利き出してからのオーバ−サポート……といった課題が少しづつ改良され、油圧式と遜色ないレベル、とは言えないまでも、これなら普通の人が意識しないで使えるレベルに達していると感じた。
インパネまわりの造形はいたってシンプル。そして質感は残念ながら日本車にはとうてい及ばないレベル。しかしスイッチ類に凹凸をつけ誤操作を防ごうとしている点など、好感の持てるデザインポリシーである。ちなみに1.6でもオートエアコン、雨滴感知オートワイパー、運転席/助手席/前後サイド/カーテンなど8つのエアバッグ、前後フォグランプなどがしっかり装備される。ベーシックグレードでも手抜きなし。
またエンジンのON/OFFはイモビ機能つきのカードキーで。ついでに飛行機のスロットルレバーのようなブレーキレバーも特徴的である。

実際のサイズより大きく感じる運転感覚
国道1号線から23号に入り、伊勢に到着した時はすでに夜が明けていた。小春日和の朝日が眩しい。そして伊賀上野/奈良/京都と、撮影をはさみながらしずしずと走らせる。
ここで2回目の給油。10.8km/Lという結果。終始トラック軍団に囲まれ自分のペースを保てなかったことが災いしてか、いまひとつ伸びず。エアコンはON/OFF半々。ちなみに内気循環機能は重宝した物のひとつ。あの殺意を覚えそうなディーゼルモクモクの排気ガスの中、延々と走らなければならなかったから。
古い街並みがつづく古都の路地裏は狭く見通しは最悪。が、今回はあえて迷い込んでみる。ボディの見切りは悪くないものの、Cセグハッチとは思えないほど大きさを感じる。特にフロント真下や左右のリアは距離感がつかみにくい。さらに言えば縦列駐車などではミラーに映っている部分でも一発で寄せきれないのには思わず苦笑い。それにミラー自体の張り出しも大きく、せっかく広角ミラーを採用しているのだから、あと左右で20mmづつ切り詰めても良かったのでは、と思う。なんなら左右非対称の形状でもいい。
タイヤサイズ変更で走りに微妙なズレ
乗り心地はまずまずといったレベル。本音を言えば初期のMTモデルが履いていた195/65R15なんてサイズがベターなのだけど、現在履かされている205/55R16でもなんとか許容できる範囲。多少スプリングの初期レート変化やダンパーの縮み側の減衰力の立ち上がり方と、タイヤの性格が一致しない面があるのは残念ながら、気持ち悪い動きではないのがせめてもの救い。
それにスタビも利いているけど利き過ぎてはいない。個人的には「タイヤを細いままでダンパーの伸び側の減衰力をもう少し強くすればなおベターかも」といったところ。その方が乗り心地を損なわずにコーナリングが安定する。
またリアはトレーリングアームの固定式とはいいながらも、2.0と較べると左右の捩れが大きく路面をトレースする能力に長けているような印象。大きなウネリのある路面でもしっかりと追従するし、段差があっても横っ飛びするような仕草もなし。正式なアナウンスはないものの、アクスル自体の鉄板が薄いとかスタビの径が細いとか、ちょっとセッティングを変えているのかもしれない。
肥大化したボディサイズには賛成できないけれど、この足まわり&タイヤでこの安定性を確保しているということは、口惜しいけれどトレッドの広さが利いていることは間違いない。
ウエットでシャシー性能を確認
美並で初めての仮眠。が、フロントウインドウを叩く雫の音で眼が覚めた。3日目は雨。果たして、ドシャ降りの高速でもメガーヌの操安性は揺らぐことはなかった。足下はコンチネンタルのプレミアムコンタクトながらまずまずの直進安定性。トラクションの掛かりも十分で、ドライではちょっとペースを上げるとコーナーでは鳴きっぱなしながら、ウエットでこの挙動なら悪くないのではなかろうか。滑り出してからのコントロール性もいいし。弱アンダーステアに躾けられているメガーヌとの相性もまずまずである。
それからワイパーはちゃんと右ハンドル用に仕立ててあって、拭き取り面積も及第レベル。しかも動きがオーケストラの指揮者のように、機敏だけどなめらかに動く様が印象的。ただ、リアウィンドウは独特の形状をしている関係で、拭き取り面積が限られてしまうのが玉に瑕。汚れやすい形状ゆえ再考の余地あり、かも。
結局、別件の取材を終え中央高速で東京に舞い戻ってきたのは深夜11時過ぎ。そして気になる3回目の燃費は15.4km/L。トータルでは1706km走って136L、12.5km/Lというもの。Cセグのテンロクとしては少々厳しい数字となった。前回テストしたMTモデルと較べても約20%のダウンである。
クルマ好きなら解るテンロクの魅力
というわけで、結論。ちょい乗りとグラツーの印象が変わらなかったメガーヌ1.6。これは凄いことじゃなかろうか。終始、馬脚を現すことはなかったわけ。基本的に過剰な演出はないものの、徹底的に無反応ということもない、ドライバーの意思に忠実。腕利きのベテラン、あるいは根っからのクルマ好き、そういった人たちには頼れる相棒となる。しかし逆に言うとヘタな運転にはそれに見合った反応しか返ってこないということでもあり、このクルマに乗って「走らない、止まらない、曲がらない」というのであれば、そういった運転しかできていないということで、それはそれで恐ろしいクルマである。
あとひとつ、メガーヌのある生活を阻む最大の問題点は、ユーザーのバックアップ態勢が整っていないこと、である。ストレートに言ってしまえば各ディーラーのスキルの差が大き過ぎるのだ。ハード&ソフト面とも。これは一歩づつでもいいから、改善して欲しい点である。
それでは個人的にはどうか。条件が満たされれば明日にでも自分の駐車場に納まっていてもおかしくないとさえ思う。たとえばシルバーのカラー、3ドアのボディ、シフトはマニュアル、そして足下は軽量な15インチAWを履いて……。こんな仕様があったら本気で欲しいと思う。
ルノー・メガーヌ1.6。審美眼を持つMag-x読者に、ぜひテイスティングしてもらいたい。日本車とまったく異なる世界がそこにはあるはずだから。(Honkan)







