
皆さんが知りたいことは充分承知しているつもりである。先代プジョー206で気になっていた部分が改善されているかどうか、だろう。たとえば、許しがたいドラポジはまともになっているのか? キャビンの質感は向上したのか? 絶妙な猫アシは受け継がれているのか? ラゲッジスペースは大きくなったのか? 居住空間は拡大されているのか? 煌めくハンドリングは健在なのか? 不評だったATは改善されたのか? などなど……。ズバリ、答えはYes、Yes、No、No、Yes、保留、Noである。
順を追ってお話ししたい。まずドライビングポジション。右ハンドルでもペダルのオフセット量は少なく、必要充分なサイズと調整幅をもつシートを備え、ステアリングはチルト+テレスコピック機構付き。もうこれでドラポジに関して悪態をつくことはないはずである。しかもレザーとファブリックのコンビであるGTのシートは座面が絶妙に後傾しているおかげで、バランス良く座面と背もたれに体重をあずけられるのがポイント。ランバーサポートなしでもいける。ちなみに背もたれの調整はダイヤル式ではなく国産車のようなレバー式。
つづいてキャビンの質感。ダッシュボードはソフト素材で表面処理も巧み。フロントウィンドウへの映り込みも少ない。そしてカーボン調パネルやレザー素材が各部にちりばめられ、格段に向上した組み立て精度のおかげで206とは別クラスのクルマのよう。静粛性も充分。徹底的な遮音対策のおかげで、アイドリング時はセルシオに乗っているかのような(?)錯覚を起こす。
またGTIやS16といったモデルはともかく、柔らかいけれど粘る『猫アシ』と呼ばれるサスペンションがプジョー流、だったはずなのだけど、407あたりから宗旨替えしてしまったかのよう。ドイツ車のようにロールを抑えつつ重厚な動きを演出しているのである。しかもGTはタイヤからの振動やノイズを顕著に伝えてきて、お世辞にも乗り心地がいいとは言えず、高速道路のつなぎ目など急な入力があった場合、容赦なくガツンっとくる。ダンパーが馴染むのを待ちたい。
ラゲッジスペースもカタログに謳われているほど進歩していない。通常270リッター/最大923リッターはクラス平均。206よりはまだまともながら決して誇れるレベルではなく、しかも1007で見せた理路整然に動くアクションを忘れてしまったかのように、リアシートの折りたたみはファジー路線。
逆に居住空間は105ミリ広くなった室内幅が効いてる。広いとは言えないものの必要充分な空間を確保。補足ながらノーズが描く軌道が見えないうえにAピラーは寝すぎているのだけれど、ガラスエリアは適切でピラーも太すぎず圧迫感はなし。エンジンフードの半分以上を占領するヘッドライトは強烈だが、夜間でも信号や標識が見やすいという利点をもつ。加えてステアリングを切った方向に補助ライトが点くのもマル。単純でありながら効果抜群。さらに心配していた斜め後方の視界も悪くなかった。
ただ魅力的なパノラミックガラスサンルーフを装備した場合、170センチのワタシが姿勢を正してリアシートに座ると髪の毛が天井に触ることとなる。なぜなら外野二階席からピッチャーマウンドを見おろすようで見晴らしのいいリアは、フロントより一段高い座面をもっていることに加え、なんと206より5ミリも室内高が低いのである。意外な事実。
それでは他メーカーでは絶対に真似のできない、天才的とも言えるハンドリングはどうか? はっきり言って現時点では的確な判断を下しにくいというのが本音。本当に申しわけないけど。理由はこうだ。シャシー自体の限界をさらけ出す前に、完全にOFFにできない悪魔のようなESP(エレクトロニックスタビリティコントロール)が介入してすべてを台なしにしてしまうからである。それに電動モーター式となったパワステは速度に応じてアシスト量を決めるというセットアップ。高速域で軽すぎないのは歓迎するものの、制御がまだ未成熟のうえ路面からの情報をあまり伝えてこないのはいただけない。5速のまま1000回転&40キロからでも加速していくトルク特性によって、1270キロという決して軽くはないボディをグイグイ引っ張っていくBMW製1.6リッター直列4気筒ターボエンジンは評価できるものの、ハンドリングや足周りのセットアップに関しては落胆の色を隠せないというのが本音である。
さらに日本市場で受け入れられなかったATは、あいかわらず迷走をつづけているよう。だいぶ日本人好みになってきてはいるものの、根本的な解決にはなっていないと感じる。はっきり言って4速は時代遅れ。これでは強力なライバルたちに扱いやすさでも燃費でも太刀打ちできない。この際だからアイシンからでもなんでも、市場に合ったATを買ってしまったらどうだろう。今の時代、決してめずらしいことではないはず。ちなみに5MTはストロークが短く節度感もあるのだけれど、精度の点でいまひとつ。しかもアルミ製ノブは冬冷たくて夏熱いという弱点をもつ。また実燃費はリッター当たり12.6キロであった。
もしこのアグレッシブなボディフォルムが受け入れられたのなら新しいプジョー207は再びこのクラスの覇者となるはずである。なぜなら失った物はゼロではないものの、一般ユーザーにとってそれを上回るメリットがもたらされるのは確実だからである。国産車からの乗替え組、女性ドライバー、免許取り立てのビギナー……たちにとって。個人的にはかつて感じたあの煌めくようなハンドリング&心ふるわせるドライビングフィールを、現時点でこの207GTから感じとることはできないものの、それでもワタシはプジョーファンでいることをやめることはないだろう。そう、皆さんもご存じのように、あの『GTi』が久しぶりに日本市場でも復活を遂げるのである。やはり期待せずにはいられないのだ。(Honkan)